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「主の祈り」(5) サンスクリット語

「主の祈り」についてはいままでに新約聖書の原文のギリシャ語のほかに、ラテン語とドイツ語と英語の翻訳をとりあげたけど、ちょっとかわったとこで、インドのサンスクリット語訳の「主の祈り」をみてみたい。

本文としては The Bible Society of India のサンスクリット語訳新約聖書 नूतननियमः Nūtananiyama (The New Testament) の「主の祈り」をつかう。

もともと行わけはされてないけど、いままであつかったやりかたにあわせて、ここでも行わけをした。つづりは原文のまま。

भो अस्माकं स्वर्गस्थ पितः,
तव नाम पवित्रं पूज्यतां।
तव राज्यमायातु।
यथा स्वर्गे तथा मेदिन्यामपि
तवेच्छा सिध्यतु।
श्वस्तनं भक्ष्यमद्यास्मभ्यं देहि।
वयञ्च यथास्मदपराधिनां क्षमामहे,
तथा त्वमस्माकमपराधान् क्षमस्व।
अस्मांश्च परीक्षां मा नय,
अपि तु दुरात्मत उद्धर।
यतो राज्यं पराक्रमः प्रतापश्च युगे युगे तवैव। आमेन्।

bho asmāka svargastha pita,
tava nāma pavitra pūjyatā
tava rājyam āyātu|
yathā svarge tathā medinyām api
tavecchā sidhyatu|
śvastana bhakyam adyāsmabhya dehi|
vayañ ca yathāsmad aparādhinā kamāmahe,
tathā tvam asmākam aparādhān kamasva|
asmāś ca parīkā mā naya,
api tu durātmata uddhara|
yato rājya parākrama pratāpaś ca yuge yuge tavaiva| āmen|

ボー アスマーカン スワルガスタ ピタハ、
タヴァ ナーマ パヴィットラン プーッジヤターム。
タヴァ ラーッジヤマーヤートゥ 〔ラーッジヤム アーヤートゥ〕
ヤター スワルゲー タター メーディンニャーマピ 〔メーディンニャーム アピ〕
タヴェーッチャー スィッデャトゥ。
シュワスタナン バクシヤマッデャースマッビャン 〔バクシヤム アッデャースマッビャン〕 デーヒ。
ヴァヤン チャ ヤタースマダパラーディナーン 〔ヤタースマド アパラーディナーン〕 クシャマーマヘー、
タター トワマスマーカマパラーダーン 〔トワム アスマーカム アパラーダーン〕 クシャマッスワ。
アスマーンシュ チャ パリークシャーン マー ナヤ、
アピ トゥ ドゥラートマタ ウッダラ。
ヤトー ラーッジヤン パラーックラマハ プラターパシュ チャ ユゲー ユゲー タヴァイヴァ。アーメーン。

カタカナの発音で va はよくあるやりかたにしたがって「ヴァ」にしたけど、子音のあとでは「ワ」にした。そのほうが実際の発音にちかい。そもそも va は、英語とかの v とちがって、v の口のかたちで w を発音するって感じのものだから、全部「ワ」でもよかったかもしれない。

デーバナーガリー文字だとひとつづきになっても、ローマ字のほうは単語としてきりはなせるものはそうしてある。カタカナの発音は、デーバナーガリー文字のとおりにつづけて発音したばあいをあげてあるけど、ローマ字みたいにきりはなした発音もカッコにいれてしめした。

つぎに単語の説明をする。サンディ(連声[れんじょう])でかたちがかわってるものは絶対語末のかたちをカッコにいれてあげておいた。ただし語末の म् m がアヌスワーラになってるものについては省略した。日本語訳の「主の祈り」は「「主の祈り」(1) ギリシャ語」にある。

भो bho (भोः bho):尊敬をともなうよびかけの間投詞。
अस्माकं asmāka:「わたしたちの」、人称代名詞の1人称・複数・属格。
स्वर्गस्थ svargastha:「天にすんでいる」(形容詞)の男性・単数・呼格。「स्वर्ग svarga:天、天界、天国」+「स्थ stha:~にたっている、~にいる・ある、~にとどまる、~に住する」。
पितः pita:「पितृ pit:父」(男性)の単数・呼格。
तव tava:「あなたの」、人称代名詞の2人称・単数・属格。
नाम nāma:「नामन् nāman:名まえ」(中性)の単数・主格。
पवित्रं pavitra:「神聖な」(形容詞)の中性・単数・主格。
पूज्यतां pūjyatā:「पूज् pūj:敬意をもってあつかう、とうとぶ、尊敬する、もてなす」の受動態・命令法・3人称・単数。
राज्यम् rājyam:「王国、王位、王権、統治」(中性)の単数・主格。
आयातु āyātu:「आया ā-yā:ちかづく、くる」の命令法・3人称・単数。
यथा yathā:「~のように」。
स्वर्गे svarge:「स्वर्गः svarga:天、天界、天国」(男性)の単数・処格。
तथा tathā:「そのように」。
मेदिन्याम् medinyām:「मेदिनी medinī:大地、土地、国土」(女性)の単数・処格。
अपि api:「~も、もまた、さえも、さらに」
इच्छा icchā:「願望、希望、欲望、意向、意志」(女性)の単数・主格。तव tava と連声して तवेच्छा tavecchā になってる。
सिध्यतु sidhyatu:「सिध् sidh:完成する、成功する、うまくいく、なされる」の命令法・3人称・単数。
श्वस्तनं śvastana:「श्वस्तन śvastana:翌日・未来に関する」(形容詞)の中性・単数・対格。
भक्ष्यम् bhakyam:「たべもの」(中性)の単数・対格。
अद्य adya:「きょう、いま」。
अस्मभ्यं asmabhya:「わたしたちに」、人称代名詞の1人称・複数・与格。अद्य adya と連声して अद्यास्मभ्यं adyāsmabhya になってる。
देहि dehi:「दा dā:あたえる」の命令法・2人称・単数。
वयञ् vayañ (वयम् vayam):「わたしたちが」、人称代名詞の1人称・複数・主格。
ca:「そして、~と」。文の最初にはたたない。ギリシャ語の τε [te]、ラテン語の -que とおなじ語源。
अस्मद् asmad (अस्मत् asmat):「わたしたちから」、人称代名詞の1人称・複数・奪格。ここでは「わたしたちに対して、わたしたちに関して」ということだろう。यथा yathā と連声して यथास्मद् yathāsmad になってる。
अपराधिनां aparādhinā:「अपराधिन् aparādhin:罪のある、過失のある」(形容詞)の男性・複数・属格の名詞化。
क्षमामहे kamāmahe:「क्षम् kam:たえる、ゆるす」の直説法・現在・1人称・複数。
त्वम् tvam:「あなたが」、人称代名詞の2人称・単数・主格。
अपराधान् aparādhān:「अपराधः aparādha:犯罪、罪、過失、加害」(男性)の複数・対格。
क्षमस्व kamasva:「क्षम् kam:たえる、ゆるす」の命令法・2人称・単数。
अस्मांश् asmāś (अस्मान् asmān):「わたしたちを」、人称代名詞の1人称・複数・対格。
परीक्षां parīkā:「परीक्षा parīkā:試験、試練」(女性)の単数・対格。
मा mā:禁止をあらわす。
नय naya:「नी nī:みちびく、つれていく」の命令法・2人称・単数。
तु tu:「しかし」。文の最初にはたたない。「否定…अपि तु」で「…ではなくて、むしろ」。
दुरात्मत durātmata (दुरात्मतः durātmata):「दुरात्मन् durātman:わるい性質の、凶悪な」(形容詞)の語幹に奪格をあらわす語尾 तः -ta がついたもの。
उद्धर uddhara:「उद्धृ uddh (<उद्-हृ ud-h):~(奪格)から ひきだす、もちあげる、すくいだす」の命令法・2人称・単数。
यतो yato (यतः yata):「なぜなら、~であるから」。
पराक्रमः parākrama:「勢力、力、権力、勇気」(男性)の単数・主格。
प्रतापश् pratāpaś (प्रतापः pratāpa):「威厳、品位、優越」(男性)の単数・主格。
युगे yuge:「युगं yuga:世代、宇宙期、ながい期間」(中性)の単数・処格。
एव eva:「まさに、まったく、実に、~のみ」。तव tava と連声して तवैव tavaiva になってる。
आमेन् āmen:「アーメン」。もとはヘブライ語の אמן ʼāmēn [アーメーン]で、「たしかに、ほんとうに、そうなりますように」。

デーバナーガリー:デーヴァナーガリー。 アヌスワーラ:アヌスヴァーラ。

関連記事
 ・「主の祈り」(1) ギリシャ語
 ・「主の祈り」(2) ラテン語
 ・「主の祈り」(3) ドイツ語
 ・「主の祈り」(4) 英語

2010.07.16 kakikomi

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