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『シュタウブ希和辞典』

まえに日本語でひける古典ギリシャ語(古代ギリシャ語)の自費出版の辞書についてかいたことがあるけど (『LEXICON GRAECO-IAPONICUM/希和辞典』」)、最近この辞書がちゃんと出版されてるのがわかった。発売日は2010年4月26日(奥がきの日づけ)で、

『シュタウブ希和辞典』
 アウグスチン・シュタウブ編
 発売元:リトン
 A5、ハードカバー、517ページ
 1万5000円(税ぬき)
 ISBN 978-4-86376-013-4

編者は Augustin Staub っていうドイツ人で、ドイツ語だとこの b は /p/ って発音するから、まえの記事で「シュタウ」ってかいたんだけど、ここでは「シュタウ」になってる。ずいぶんまえに「言語」(大修館書店)っていう雑誌でこの辞書を紹介してたから、それをしらべてみると、そこでも「シュタウ」だ。このひとは日本人から「シュタウさん」とかいわれることがおおかったのかもしれない。だから、それでもいいとおもって、「シュタウ」って名のってたってことなのかな。

「まえがき」のウラのページにある[付記]によると、出版の作業は1986年からはじまったんだけど、いろいろあって作業がおくれて、けっきょく編者がいきてるうちに出版することはできなかったらしい。

で、自費出版のほうとどうちがってるのか、ちょっとみてみた。

まず、すぐわかるちがいは、母音のながさを表記してることだ。自費出版のほうはたぶんタイプ印刷の関係で母音をのばす記号をつけられなかったんだろうけど、こっちはちゃんとのばす記号がついてる。それに、みじかい母音にもみじかくする記号がついてるのがある。まぎらわしいのはそうしたのかな。

それから、自費出版のほうにはあった付録の固有名詞辞典がなくなってるんだけど、どうしてだろ。

それ以外は、とくべつちがってるとこはないみたいだ。ただし、こまかいちがいがあることはある。誤植みたいなのは訂正してるし、日本語の表記をかえてるとこもある。それから、文語的な翻訳になってたとこはなおしてある。たとえば、

或事 あること
或人 ある人
聞き容れる 聞き入れる
小競合 こぜりあい
厭々ながら いやいやながら
法螺吹き ほら吹き
ユデア人 ユダヤ人
古代アテネ 古代アテーナイ市
エヂプト エジプト
正確 正確さ
雑ぜ物のない葡萄酒 まざり物のない葡萄酒
語を慎重に選ぶ 言葉を慎重に選ぶ
氷なき 氷のない
持ち物なき 持ち物のない
混乱せる 混乱した
卓越せる 卓越した
密集せる 密集した
自慢せる 自慢した

ただし、「或事」「或人」は前半のほうはこういうふうに「あること」「ある人」になおしてあるんだけど、後半のほうになると「或事」「或人」のまんまだ。時間の関係でこの作業をやめちゃったのか、分担して作業をしてるひとの方針のちがいなのか…。

それとか、形容詞の項目で、「判断することなく」「訊問なしに」っていうふうに副詞の訳みたいになってたのが、「判断することのない」「訊問なしの」っていうふうに形容詞らしい訳になおしてあったりするとこもある。

自費出版のほうにはちいさい「っ」がつかわれてない。タイプ印刷だからなのかわかんないけど、もちろんこれはなおしてあって、いまのかなづかいのとおり、ちいさい「っ」がつかわれてる。

この辞書にはもともと用例はほとんどない。それでも、ところどころホメーロスと新約聖書の出典をしめしてるとこがある。ただし、出典の文章そのものがかいてあるわけじゃなくて、たとえば『イーリアス』第1巻100行なら、(Il. 1, 100)っていうふうにかいてある。これがけっこうふえてて、それぞれの項目のあとにつけくわえられてるのが目だつ。ただし後半になるとすくなくなってるようにみえる。それから、自費出版のほうだと、それぞれの意味のとこにこの出典がついてたのに、なぜか単語全体のいちばん最後にまとめられてる。

さらにこまかいことをいうと、たまたまみつけたんだけど、自費出版のほうには ἀκρόπολιςἀκροπόρος のあいだに ἀκροπόλος があるんだけど、この ἀκροπόλος がなくなってる。にたような単語がならんでるから、うっかり みおとしちゃったのかな。

古川晴風編著『ギリシャ語辞典』(大学書林)のほうがページ数もずっとおおいぶん単語のかずもおおいんじゃないかとおもうし、用例も多少ある。それから辞書によくある付録もついてる(「暦法および度量衡について」「名詞,形容詞,代名詞,数詞の変化表」「動詞の変化表」)。でも、単語の説明としては、どっちもそんなにかわりないような感じがする。もちろん訳語がちがうから、その点一長一短だし、翻訳のために訳語をさがすとしたら、どっちもみたほうがいいだろう。ただ、古川『ギリシャ語辞典』は税ぬき4万5000円だから、それにくらべたら『シュタウブ希和辞典』のほうがずっとやすいし、もちはこびもできるぐらいの感じだろう。

べつにギリシャ語を勉強してるっていうんじゃなくて、たまたまギリシャ語の単語をしらべなきゃならなくなって、図書館かどっかにあるギリシャ語辞典をひいてみるようなばあいでも、日本語でひける辞書がひとつしかないより、もうひとつでもあったほうがずっといい。辞書はひとつだけじゃなくて、いくつかひいてわかってくることもある。

これで、日本語でひける古典ギリシャ語の辞書がふたつになったことをよろこびたい。

ホメーロス:ホメロス。 イーリアス:イリアス。

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 ・『LEXICON GRAECO-IAPONICUM/希和辞典』
 ・『シュタウブ ギリシア語文法』

2010.08.24 kakikomi; 2010.12.27 kakitasi

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