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接尾辞 -oid

アンドロイド(android)、ヒューマノイド(humanoid)、モンゴロイド(Mongoloid)、なんていうのについてる接尾辞 -oid は「~のような(もの)、~に にている(もの)」っていう意味の形容詞か名詞をつくる。

これは接尾辞っていわれてるけど、もともとは接尾辞っていうようなもんじゃなくて、複合語の後半の要素だった。っていっても、英語とかの近代西洋語については接尾辞っていってまちがいじゃない。

-oid のもとはギリシャ語の -οειδής [oeːdɛ̌ːs オエ~デース]で、つなぎの母音 οειδής っていうつくりになってる。-ειδής のもとは εἶδος [êːdos エ~ドス](すがた、かたち、種類)で、-οειδής がつくと「~のかたちをしている(もの)」っていう意味の複合語になる。

これがラテン語にうつされると -οειδής の部分は -oides [オイーデース]になる。でも、ギリシャ語のつづりをそのまんまローマ字にすれば -oeides になるはずだ。これは ει [eː]が口のひらきがせまい「エー」で、のちには「イー」になったからで、このためにラテン語には i[イー]でうつされることがおおい。だから、ここでも -oides になる。

ところが、これとはちがう説明をしてるものがある。それは『独-日-英 科学用語語源辞典 ギリシア語篇』(同学社)で(『科学用語語源辞典』)、造語法の説明のとこに「母音の変化(縮合)」の例としてこの -oid がでてくる。

 ギリシア語の縮合現象は科学術語の造語上にもかなり重要なものとして注意しておく必要がある.例えば ἀδήν (ἀδεν-)εἶδος (種類,形)と合成語をつくる場合,ἀδεν-ο-εἶδος のように -ο- を介在させる.しかしこの -ο-εἶ- が縮合をおこして -οι- となるのである.こうして Aden·oid (ドングリ様のもの,腺様のもの,アデノイド)という合成語が出来あがる.

こういうふうに説明してるんだけど、この説明はおかしい。たしかに、この ει はもともとはほんとの二重母音[ei]だったから、οειοι [oi]になってもおかしくないんだけど、-οειδής でおわる単語はギリシャ語そのものとしては -οιδής にはなってない。-oi- になるのはあくまでラテン語にうつされたときだ。それに、ギリシャ語の段階で -οιδής になってたとしたら、ギリシャ語の二重母音 οι はラテン語には oe でうつされるから、-oedes になってただろう。

-οειδής の母音が融合しないのは、もともとは母音が連続してなかったからだ。εἶδος はふるくは Ϝεῖδος [wêidos ウェイドス]だったから、つなぎの -ο- とは母音連続にはならなかった。この -Ϝ- は結局なくなっちゃったわけだけど、/j/ とか /s/ がきえて母音連続になるのとちがって、-Ϝ- がきえたのはずっとあたらしいもんだから、母音は融合しないことがおおい。

で、ラテン語の -oides が英語だと語尾がとれて -oid になったわけだけど、英語の -oid の母音は二重母音として発音されてる。でも、ラテン語のほうは二重母音じゃない。古典式発音なら「オ・イー」で「イー」にアクセントがあるし、古典式じゃなくても「イ」にアクセントがある。このことがはっきりのこってることばもあって、フランス語だと -oïde [ɔid]っていうつづりで、分離記号がついてるし(分離記号がないと[wad]っていう発音になっちゃう)、ドイツ語でも -oid [oˈiːt]っていう発音で、二重母音にはなってない。

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 ・『科学用語語源辞典』

2011.2.28 kakikomi; 2012.05.18 kakitasi

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