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頭がしびれるテレビ「神は π に何を隠したのか」

2011年5月4日にNHKで放送された「頭がしびれるテレビ」は「神は π に何を隠したのか」って題して円周率についていろいろやってた。出演は、谷原章介、釈由美子、オリエンタルラジオ、それに学者ふたり。

この番組のタイトル「頭がしびれるテレビ」の下には現代ギリシャ語で

Η ΤΗΛΕΟΡΑΣΗ ΣΚΙΖΕΙ

ってかいてあったんだけど、タイトルをギリシャ語に訳したものなんだろう。ぜんぶ小文字でかけば η τηλεόραση σκίζει。

これは[itilɛˈɔrasi ˈskʲizi イ・ティレオーラスィ スキーズィ]って発音して、直訳すると「テレビがひきさく」。定冠詞 η がついてるから「このテレビ番組はひきさく」のほうがいいかな。英語にそのまんま訳せば The television splits. とでもなるけど、「頭がしびれる」っていうのを「わる、さく、ひきさく」っていう意味の動詞 σκίζω [ˈskʲizɔ スキーゾ]であらわそうとしたんだろう。でも、これだけだと なにをひきさくのかわかんない。それでも ΤΗΛΕΟΡΑΣΗ と ΣΚΙΖΕΙ のあいだに脳をあしらったマークがはいってたから、これで「頭をひきさく」の感じをだしてるのかもしれない。

ただ、こういういいかたがなんかあるのかもしれないとおもってネットでしらべてみたら、フィリップスの Cinema 21:9 っていうテレビについてかいてる文章に η τηλεόραση σκίζει があった。ちょっとした辞書にはのってないんだけど、σκίζω には自動詞で「ひいでる、ぬきんでる」っていう意味があるみたいで、これもそうなんだろう。日本語でいうと「ぶっちぎる」がそんな感じかもしれない。

でも「頭がしびれるテレビ」にはこの意味はあてはまらないかな。「この番組は卓越している」って意味だとしてもおかしくはないけど、それじゃタイトルの「頭がしびれるテレビ」にはなってない。それとも、タイトルの翻訳のつもりじゃないのかな。

τηλεόραση についてはまえにかいたことがあるけど(『ラテン語小文典』(附 ギリシア語要約およびラテン・ギリシア造語法)」)、ここでもかいておこう。これは一種の逆輸入で、まず television が tele と vision をくみあわせてつくられた。tele はギリシャ語の τῆλε [tɛ̂ːle テーレ]」(とおく)、vision のもとはラテン語の visio [ウィースィオー](みること)で、これを現代ギリシャ語にするとき、ラテン語起源の部分をギリシャ語になおして τηλεόραση にした。vision をギリシャ語の όραση (古典語なら ὅρασις [hóraːsis ホラースィス])におきかえたわけだ。

σκίζω は古典語だと σχίζω [skʰízdɔː スキズドー]で、現代語でもおんなじつづりの σχίζω [ˈsçizɔ スヒーゾ]がつかわれないこともない。ただし文語(純正語)か文語的ってことになるけど。

この動詞の最初のふたつの子音 σχ は現代語の発音だと古代とちがって摩擦音の連続になってる。そうなると発音しやすいように2番めの摩擦音が閉鎖音にかわることがある。たとえば古代の χθές [kʰtʰés クテス](きのう)がいまの発音で χθες [xθɛs フセス]になったから、2番めの摩擦音が閉鎖音にかわって χτες [xtɛs フテス]っていうかたちができた。それとおんなじでこの動詞も σχίζω が σκίζω になった。

σχίζω はラテン語式のつづりだと schizo で、これが専門用語の構成要素としてつかわれる(正確にいうと動詞語尾をとった schiz につなぎの母音 o がついたもの)。「分裂の」とかいう意味で、schizophrenia (統合失調症)なんていうのがある。このあたりの連想で「頭がしびれる」にあてたのかも?

円周率がギリシャ文字 π であらわされてることについて番組では、

パイ、それはギリシャ語で周囲を意味するペリフェレイアということばのかしら文字。

っていうふうに説明してて、περιφε´ρεια っていうギリシャ語を画面にうつしてたけど、これをみてわかるようにアクセント記号がちょっとヘンだった。ε のうえについてなきゃいけないのに、うしろになっちゃってる。アクセント記号つきのギリシャ文字のあつかいかたがわかんなかったのかな。日本語版ウィキペディアでもこうなってるから、それをそのまんまつかったとか? ちなみにここでつかわれてる鋭アクセント記号はユニコードのギリシャ文字のとこにある記号じゃなくて、ラテン文字の鋭アクセント記号だ。

περιφέρεια は古典時代の発音で[peripʰéreːa ペリペレ~ア]、現代の発音で[pɛriˈfɛrĭa ペリフェーリヤ]だけど、古典式発音をもとにしたカタカナがきだと たいていは「ペリペレイア」か「ペリフェレイア」になる。

π についてはべつの説明もあって、おんなじ「周囲」って意味の περίμετρος [perímetros ペリメトロス]か περίμετρον [perímetron ペリメトロン]のかしら文字だともいわれてる。

περιφέρειαπερίμετροςπερίμετρον)もラテン語・フランス語経由で英語にはいって、periphery と perimeter になった。

関連記事
 ・『ラテン語小文典』(附 ギリシア語要約およびラテン・ギリシア造語法)
 ・「頭がしびれるテレビ」のギリシャ語
 ・「頭がしびれるテレビ」、ふたたび π のはなし

2011.05.13 kakikomi

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