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電話の「米印」と「シャープ」

電話のダイヤル・ボタンには数字以外にふたつ記号がある。よく「米印」と「シャープ」っていわれてるけど、ほんとは米印でもシャープでもない。

米印は のことで、電話の記号とはぜんぜんちがう。電話の「米印」の正式名称は「スター」または「星印」らしい。ただ日本語で「星印」っていうとどっちかっていえば ☆ とか ★ のことじゃないかとおもうんだけど。

スターは「アステリスク/アスタリスク(asterisk)」っていわれることもある。でもこれもほんとはまちがいだ。アステリスクは * のことで、半角の * は行の上のほうにつく ちいさい記号だけど、これも「星印」っていうことがある。スターとアステリスクは角度がちがってて、スターには水平のヨコ線があるけど、アステリスクには垂直のタテ線がある。パソコンのキーボードにあるのはアステリスクだから、電話の記号とみくらべてみるとちがいがわかるだろう。ただしアステリスクはフォントによっては6本棒じゃなくて5本棒の星印のこともある。

asterisk っていうのは英語だけど、そのもとはギリシャ語の「ちいさな星」っていう意味のことばだ。ἀστήρ [astɛ̌ːr アステール](星)に ちいさいものをあらわす語尾がついて ἀστερίσκος [asterískos アステリスコス]ができた。これが後期ラテン語の asteriscus [アステリスクス]になって、14世紀に英語にはいった。いまのギリシャ語でもこの記号のことを αστερίσκος [asteˈriskos アステリスコス]っていってる。

電話の「シャープ」つまり # も、よくみると音楽のシャープとはちがってる。音楽記号の はヨコ線がななめだけど、電話の # はタテ線がななめになってる。ただしもともと電話の # のほうはタテ線がななめじゃなくてもいいらしいんだけど、区別するためにたいていはこうなってるんじゃないかな。でもシャープのほうはヨコ線がななめじゃないといけない。そうじゃないと つける位置によっては五線譜のヨコ線とかさなっちゃうからだ。ナチュラル()のヨコ線もななめになってる。

電話の # は「井桁いげた」とか「スクエア」っていわれてて、ほかに「ナンバーサイン」(番号記号)とか「パウンド」とか「ハッシュ」ともいうらしい。パソコンのキーボードにあるのはこのスクエアのほうだから、スターとちがってこっちは電話とパソコンでおんなじ記号がつかわれてる。

井げたと square っていう名まえは かたちからきてるんだろう。number sign っていうのはこの記号がアメリカで № のかわりにつかわれるからだ。アメリカ英語だとほかに pound sign ともいってる。おもさの単位のポンドをあらわすのにラテン語の libra [リーブラ]の略 lb をつかってて、そのうち小文字のエルを数字の1とまちがえないようにヨコ棒がはいった になって、さらにそれが簡単になって # がポンドをあらわすようになった。でもアメリカ系の英語以外で pound sign っていったらイギリスの通貨のポンドをあらわす £ のことになる。こっちの pound sign もラテン語の libra の L だ。

イギリス英語だとスクエアのことは hash っていってる。hash mark とか hash sign ともいうけど、アメリカでもコンピューター関係でつかわれるときは hash っていうらしい。ツイッターでつかわれてるハッシュタグもこのいいかただ。

hash は「(肉とかを)こまかく きる、きざむ」って意味で、名詞としては「こまぎれ肉料理、ハヤシ肉料理」のことなんだけど、『英和コンピューター用語辞典』(研究社)によると、# の意味でつかわれるのは「こま切れに切るときの包丁の跡からの連想」ってことらしい。

2011.08.24 kakikomi; 2017.06.19 kakitasi

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