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エル・グレコの名まえ

エル・グレコ(1541–1614)は、ベラスケスとゴヤとともにスペインの三大画家っていわれてるけど、この名まえは本名じゃなくて、「ギリシャ人」って意味のあだ名だ。El Greco の Greco はイタリア語で「ギリシャ人」って意味で(スペイン語のギリシャ人は Griego)、男性単数の定冠詞 El はスペイン語なんだろうけど、イタリア語のベネチア方言って説もある。

エル・グレコはクレタ島うまれで、一時イタリアにいたあと、最後はスペインのトレドにすみついた。本名は Δομήνικος Θεοτοκόπουλος [ðoˈminikos θeotoˈkopulos ゾミーニコス セオトコープロス]で、これは現代ギリシャ語の発音だけど、エル・グレコのころの発音も いまと ほとんどかわりなかっただろう。でも、「ドメニコス・テオトコプーロス」とかいうのをよくみかける。「ドミニコス・テオトコプロス」のほうがまだいいとおもうんだけど。もちろん「セオトコプロス」だっていい。ちなみに古典式でよめば「ドメーニコス・テオトコプーロス」になる。

Δομήνικος って名まえはもともとはギリシャ語じゃない。もとをたどればラテン語の Dominicus [ドミニクス]で、この名まえはイタリア語の Domenico [ドメーニコ]とかスペイン語の Domingo [ドミンゴ]になった。当時クレタ島はベネチア共和国の支配下にあったから、Δομήνικος って名まえのもとはイタリア語なのかな。

ラテン文字のエル・グレコの名まえとしては Domenico Theotocopuli っていうのをよくみかける。でも、トレドの公園にあるエル・グレコの記念碑だと DOMINICO THEOTOCOPVLI になってる。このつづりにある V はむかしのラテン語ふうのつづりで、U とおんなじことだから、記念碑だとエル・グレコの名まえのつづりは Dominico Theotocopuli ってことになる。Δομήνικος は古典式でつづりをうつせば Domenicos だけど、発音をうつせば Dominicos だ(Δ は D でうつすとして)。このことからすると Dominico のほうがギリシャ語の名まえの発音にちかいことになるけど、よくみかけるつづりはイタリア語の Domenico がまざっちゃってるのかな。それか、本人がイタリアにいたとき この名まえをつかってて、スペインにわたったあとも そのまんま つかいつづけてたのかな。

エル・グレコ自身は自分の作品にはギリシャ語で署名してた。絵のはじっこのほうにそのまんまかいてるのもあれば、メモ用紙みたいなのをかきくわえて、その紙の上に署名してるのもある。署名は名まえだけじゃなくて、たいていこういう文章だ。

δομήνϊκος θεοτοκόπουλος ἐποίει

こういうふうに全部小文字なのがほとんどだけど、なかには大文字になってるのとか(「聖セバスティアヌス」)、小文字でかしら文字だけのもある(「聖母子と聖マルティーナ、聖アグネス」)。それから、ところどころ中世以来の結合文字がつかわれてる(大文字のでも)。イオータに分離記号みたいのがついてるけど、むかしっからイオータにはこの記号がついてることがよくあって、イオータを目だたせようとしてるんだろう。

名まえのあとの ἐποίει [eˈpii エピーイ]は「つくった」っていう意味の動詞で、これは文語なんだけど(当時はまだ現代の口語文はない)、古典語の発音なら[epǒijeː エポイエ~]になる。「ドミニコス・テオトコプロスがつくった」っていう意味だ。この ἐποίειἐποία にしてる説明をネットでみかけたけど、こんな活用形はない。ここには ει の結合文字がつかわれてて、これがちょっと α みたいにみえるもんだから、ἐποία だっておもっちゃったんだろう(ステファヌス版プラトーン全集」)。

本名じゃなくてエル・グレコっていうあだ名をつかうばあい、いまのギリシャ語だと、この発音をそのまんまギリシャ語でかいた Ελ Γκρέκο [elˈɡreko エル・グレーコ]っていうのがあるけど、ほかに定冠詞だけギリシャ語にした Ο Γκρέκο [oˈɡreko オ・グレーコ]っていうのもつかわれてる。

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 ・ステファヌス版プラトーン全集

2011.10.08 kakikomi; 2017.06.19 kakinaosi

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