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聖ソフィア大聖堂のモザイクのギリシャ語

いまはアヤソフィア博物館として公開されてるイスタンブール(コンスタンティノープル)の聖ソフィア大聖堂には9世紀から13世紀ごろのモザイク画がのこってて、えがかれてる人物の名まえとかがギリシャ語でかきこまれてるんだけど、そのうちのいくつかをみてみることにする。

まずはデイシスっていわれてるモザイク画で、仏の三尊像みたいにキリストを中心に左右に聖母マリアと洗礼者ヨハネがえがかれてる。

ΙΣ ΧΣキリストの左右にある文字はイエス・キリストってことで、イエス(Ἰησοῦς / ΙΗΣΟΥΣ)が ΙΣ、キリスト(Χριστός / ΧΡΙΣΤΟΣ)が ΧΣ って略されてて(Σ はこの書体だと C のかたち)、省略だってことをあらわすティルデみたいなのが上についてる。この記号はただのヨコ棒のこともある。省略記号には点がつかわれることもあって、ここにもでてきてるけど、こういうふうにちがう省略記号がいっしょにつかわれることもある。それから ΙΣ には Ἰησοῦς の曲アクセント記号がついてるし、ΧΣ にはΧριστός の鋭アクセント記号がついてる。

ΜΗΡ ΘΥ聖母マリアの左右にある文字は「神の母」っていう意味だ。「母」(Μήτηρ / ΜΗΤΗΡ)が ΜΗΡ って略されて、3つの文字のタテ線をあわせた結合文字なってる。タテの線をいっしょにするのは、こういう省略のばあいだけじゃなくて碑文にはよくあるし、ラテン語にもよくある。ここには省略記号としてティルデのほかに点が2つついてて、鋭アクセント記号もある。「神の」(Θεοῦ / ΘΕΟΥ)は ΘΥ って略されて、省略記号と曲アクセント記号がついてる。

ΟΑΓΙΟΣ ΪΩ洗礼者ヨハネの左右にある文字は「先駆者聖ヨハネ」ってことで、定冠詞と「聖」(ὁ ἅγιος / Ο ΑΓΙΟΣ)は省略なしでかいてある。Α には有気記号がついてないけど。語尾の Σ は独特のかたちになってる。ヨハネ(Ἰωάννης / ΙΩΑΝΝΗΣ)は省略記号と鋭アクセント記号つきで ΙΩ って略されてる。この書体だと大文字の Ω は小文字みたいなかたちで、Ι には無気記号と分離記号がついてる。この分離記号は音節をわけるためじゃなくて、Ι にはよくついてる。

ΟΠΡΟΔΡΟΜΟΣ定冠詞つきの「先駆者」(ὁ πρόδρομος / Ο ΠΡΟΔΡΟΜΟΣ)は略されてなくて、タテがきだ。ΠΡΟΔΡ は結合文字になってて、ΠΡΟ には鋭アクセント記号がついてる。ΜΟΣΟ はちいさく Μ の上についてる。洗礼者ヨハネ(バプテスマのヨハネ)の称号として「先駆者」っていうのはあんまりみないかもしれないけど、正教会のほうじゃ一般的みたいで、日本の正教会の用語だと洗礼者ヨハネは「前駆授洗[ぜんくじゅせん]イオアン」っていってる(日本の正教会の用語ってこんなのばっかりだな)。

ナルテックス(聖堂の入口部分)の中央の扉の上にあるモザイクには、本をもってるキリストがえがかれてるけど、その本にはこういうギリシャ語がかいてある。

最初に十字のマークがあって、そのあとはこうよめる。

ΕΙΡΗΝΗ ΥΜΙΝ ΕΓΩ ΕΙΜΙ ΤΟ ΦΩΣ ΤΟΥ ΚΟΣΜΟΥ

Εἰρήνη ὑμῖν. Ἐγώ εἰμι τὸ φῶς τοῦ κόσμου.

あなたがたに平和があるように。わたしは世の光である。

むかって左のページは大文字だけだけど、右のページにはアクセント記号が2カ所ついてて、τὸ の重アクセントと φῶς の曲アクセントがある。それから ΤΟΥΚΟΣΜΟΥΟΥ が結合文字になってて ΤΜ の上にかいてある。

この文章の前半は『ヨハネによる福音書』第20章第19節と第26節に、後半は第8章第12節にでてくるキリストのことばで、日本語訳は新共同訳をそのまんまつかった。口語訳だと前半は「安かれ」っていう訳だったんだけど、これって口語訳?

モザイク画は聖書の人物だけじゃなくて、皇帝とか聖職者の絵もある。たとえば、南ギャラリーにある、上のモザイクの「平和(Εἰρήνη)」とおんなじ名まえの女帝のモザイク画にはこういうギリシャ語がかいてある。

ΕΙΡΗΝΗ Η ΕΥΣΕΒΕΣΤΑΤΗ ΑΥΓΟΥΣΤΑ

Εἰρήνη ἡ εὐσεβεστάτη Αὐγούστα

もっとも敬虔な女帝イリーニ(エイレーネー)

これも全部大文字で、やっぱりアクセント記号も気息記号もついてる。ただし記号のつきかたが いまとはちがってる。気息記号は二重母音のばあい2つめの母音字につくんだけど、ΕΙΡΗΝΗ には最初の Ε についてるし、ΕΥΣΕΒΕΣΤΑΤΗ には ΕΥ の中間あたりについてる。記号がつく位置はむかしからずっとおんなじってわけじゃなかった。

ここにも結合文字がいくつかあって、ΕΥΣΕΒΕΣΤΑΤΗΣΤΤΗΑΥΓΟΥΣΤΑΑΥΟΥ がある。

聖職者の例もあげとくと、ヨハネス・クリュソストモス(金口イオアン)のモザイク画はこうなってる。

ΪΩΑΝΝΗΣ Ο ΧΡΥΣΟΣΤΟΜΟΣ

Ἰωάννης ὁ Χρυσοστόμος

これは要するに名まえと称号がかいてあるだけだけど、ここでも Ι には分離記号がついてて、ΝΝ が結合文字になってる。Χρυσοστόμος (古典式で「クリューソストモス」)は日本の正教会で「金口[きんこう]」って訳されてるけど、「黄金の口をもっている、口から黄金のようなことばがでる」っていう意味で、これに定冠詞がついてる。

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2011.11.27 kakikomi

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