« キエフにある聖ソフィア大聖堂のモザイクのギリシャ語 | トップページ | 「ひらひらの ひらがなめがね」 »

ステファヌス版プラトーン全集

プラトーンの作品を引用したり参照したりするとき出典の場所をしめすのにはステファヌス版をもとにすることになってて、それについてはまえにかいたことがあるけど(プラトーンとアリストテレースの引用:ステファヌス版とベッカー版」)、ここではステファヌス版がどんなものか みてもらおうとおもう。

それぞれの作品にはまずラテン語の解説文がついてて、そのあとの本文はギリシャ語とラテン語の対訳になってる。ラテン語訳はジャン・ド・セール(Jean de Serres、ラテン語で Joannes Serranus、1540–1598)のものなんだけど、このひとはフランス人でカルバン派の牧師、ユマニスト、史料編さん官(修史官)でもあった。

作品の本文がはじまるとこはこんな感じだ(クリックで拡大)。

これは『クラテュロス』の本文の最初のページなんだけど、ページの途中までが解説文で、くぎりの装飾の下に対話篇の登場人物がかいてあって、そのあと本文がはじまってる。作品によっては、解説文がまえのページでおわって、ちょうどページがかわったとこからくぎりの装飾がはじまってるのもある。このページは本をひらいた右側のページでギリシャ語の原文は左側だけど、つぎのページだと原文と翻訳の位置は逆になる(クリックで拡大)。つまり原文は本の内側で、翻訳は外側の欄になってる。

このページだとラテン語の翻訳のほうがながくなっててギリシャ語の原文の下にはみでてるけど、逆のばあいもあるし、まえのページみたいにちょうどおんなじながさにおさまってることもある。それから、原文と翻訳のそれぞれの欄外には注がついてる。

ſibi eſtはなしを最初のページにもどして、解説文でも翻訳文でもいいけどまずラテン語のとこをみてもらうと、いまの活字とたいしてちがいはないけど、ドイツ文字みたいに当時はラテン書体でも「ながい s」がつかわれてたのがわかる(ドイツ文字(フラクトゥーア)とドイツ語の筆記体」)。拡大したこの画像は sibi と est で、st のときはこういうふうに結合文字になる。

ſunt eſt「ながい s」は f みたいだけど、f とちがってヨコ棒が右にでてない。フォントによってはヨコ棒そのものがないのもあるし、このページのイタリック体の活字でもヨコ棒がない(画像は sunt と est)。

それから、u と v のつかいかたが いまとちがってたり、アクセント記号がついてたり、m か n を省略してまえの母音字にティルデをつけたりしてる。こういう鼻音の略しかたは むかしの写本にも印刷本にもよくある。

ラテン語についてはこのくらいにして、つぎは原文のギリシャ語のほうだけど、こっちはラテン語よりもはるかにいま活字のとちがってて、中世以来の写本にでてくる略字とか結合文字がこういう初期の印刷本にはけっこうたくさんのこってる。

πρόσωπαまずは、登場人物のとこだけど、大文字にアクセント記号つきで ΤΑ ΤΟΥ ΔΙΑΛΟΓΟΥ ΚΡΑΤΥΛΟΥ (対話篇クラテュロスの)ってかいてあるあとに πρόσωπα (登場人物)っていうのがあって、προσωπα は結合文字だ。っていっても、σωπα なんかは結合文字ってほどのもんでもなくて、ただとなりあってる字がつながってるだけともいえるけど、このくらいの結合文字はすごくおおい。

ΟΥΛΕΙ οὖν καὶ Σω-κράτει τῷδε ἀνακοινώσω-μεν τὸν λόγον; Κ Ρ. Εἴσοι本文の1行めの ΒΟΥΛΕΙ のあとには οὖν があるけど、υν が結合文字だ。そのあとのκαὶ は3文字がつながってる。

2行にまたがってるつぎの Σω-κράτεικρατε がそれぞれ文字がつながってて、そのつぎの τῷδετω が結合文字。つぎの、2行にまたがってる ἀνακοινώσω-μενκοσωμεν が結合文字だ。

そのあとの τὸν はおもしろい結合文字になってて、ちょっと目だつ。そのつぎの λόγονλογο が結合文字になってる。

となりあってる文字がただつながってるだけの結合文字をふくめると、ほとんど全部の単語に結合文字がでてきて、ひとつひとつ みてっても きりがないから、あとはいくつか特徴的なものをみるだけにしよう。

εἶναι ἑκάστῳ τῶν ὄντων φύσει6行めの後半は εἶναι ἑκάστῳ τῶν ὄντων φύσει で、最初の εἶναι がちょっとおもしろい。ἑκάστῳκα がつながってて、そのあとは στ の結合文字だ。この結合文字はスティグマ(στίγμα)っていう名まえがある。ふるいアルファベットのワウと混同されて、ギリシャ数字の6をあらわすのにつかわれる(ギリシャ語の文字と発音:Ϝ/Ϛ」)。

つぎの τῶν は全体が結合文字になってる。ω は上のほうにあって、曲アクセント記号が最後にくっついてるんだけど、こういうふうにアクセント記号もふくめて結合文字になってるのもけっこうある。

ひとつとばして、最後の φύσεισει が結合文字になってるけど、これは σει の結合文字がつながってもので、この ει の結合文字はエル・グレコの署名の ἐποίει でもつかわれてる(エル・グレコの名まえ」)。

καὶ10行めの後半にあるこの文字は καὶ で、アクセント記号もふくめて略字になってる。

τὴν αὐτὴν11行めのこれは τὴν αὐτὴν で、την の結合文字が2回でてきてるけど、τ がついてない ην だけのもよくつかわれる。それと、アクセント記号の位置がいまのかきかたとちがってて、とくに結合文字にアクセント記号がつくときは最後の部分につくことがおおい。ここでも ν の上に重アクセント記号がついてる。

Ἑρμογένης, οὐδὲ ἂν πάντες18行めにも、こういうアクセント記号の例がみっつある。Ἑρμογένης, οὐδὲ ἂν πάντες だけど、Ἑρμογένης の結合文字 γενν の上に鋭アクセント記号がついてるし、ἂν の無気記号と重アクセント記号も ν の上にあるし、πάντες の鋭アクセント記号も結合文字 πανν の上についてる。それと Ἑρμογένης の有気記号の位置がいまとちがってる。Ἑρμογένηςἂν のあいだの単語は οὐδὲ で、全体がつながってる。

ἐστὶν13行めのこれは ἐστὶν で、ν 以外の文字がくっついてるんだけど、いまの活字とはちがうかたちの εστ の結合文字スティグマと ι がつながったものだ。

プラトーン:プラトン。 カルバン:カルヴァン。

関連記事
 ・プラトーンとアリストテレースの引用:ステファヌス版とベッカー版
 ・ギリシャ語の文字と発音
 ・エル・グレコの名まえ
 ・ドイツ文字(フラクトゥーア)とドイツ語の筆記体

2012.01.01 kakikomi; 2012.02.28 kakitasi

|

« キエフにある聖ソフィア大聖堂のモザイクのギリシャ語 | トップページ | 「ひらひらの ひらがなめがね」 »