« 丸いアール、3種類のエス、ドイツ語以外のエスツェット | トップページ | 星座の名まえの略号
(ラテン語の学名とその属格と略号の一覧) »

ラテン語とギリシャ語の「わたし」

ルードルフ・フリーリンク『キリスト教の本質について』(キリスト者共同体の会)っていう本の日本語版で著者の講義のおもいでとして監修者がこんなことをかいてる。

ラテン語とギリシャ語では「私」の事を共に「エゴ」と云うのですが、発音の際のアクセントが全く違うのです。ラテン語は非常に地上的な言語で「エーゴ」と云いそれに反してギリシャ語は天上的な響きをまだ持っていて「エゴー」とアクセントが上方へ向かうのだと云う事を「たとえばテレフォンをラテン的に云えばテーレフォンですがギリシャ的にはテレフォーンと成ります」と〔…〕解説してくれた

「わたし」っていう意味の1人称単数主格の人称代名詞は、ラテン語は ego [エゴ(ー)]、ギリシャ語は ἐγώ [eɡɔ̌ː エゴー]で、ほとんどおんなじだけど、いちばんのちがいっていえばたしかにアクセントだ。

ラテン語の ego のアクセントは e- にある。でも古典ラテン語の発音で e- はながくない。「エーゴ」っていうのはドイツ式の発音だ。それでも、とにかくアクセントが e- にあることにかわりはない。ラテン語のアクセントの性質についてはいろいろあるかもしれないけど(「物質的」になったアクセント」)、ドイツ式ならドイツ語とおんなじで、つよさアクセントで発音される。

ギリシャ語の ἐγώ のアクセントは -γώ にある。古典ギリシャ語のアクセントは たかさアクセントで、このばあい ながい母音に鋭アクセントがついてるから、アクセントは のぼり調子になる。「ゴー」の後半がたかい。さらに「ゴー」のはじまりが「エ」よりもすこしたかい。つまり ἐγώ は全体として尻あがりの発音になる(古典ギリシャ語のアクセントの発音」)。だからたしかに「アクセントが上方へ向かう」わけだし、それが「天上的な響き」ってことなんだろう。

ちなみに、サンスクリット語の1人称単数主格の人称代名詞 अहम् ahám [アハム]はギリシャ語・ラテン語のエゴ(ー)に対応してるおんなじ語源のことばだ。それどころか英語の I、ドイツ語の ich、フランス語の je、イタリア語の io とかそういうのは全部ギリシャ語・ラテン語・サンスクリット語の「わたし」とおんなじ語源だ。でもまあ、それはともかくとして、古典サンスクリット語についてはラテン語みたいなアクセントの規則がいわれてるけど、それよりふるい本来のアクセントは古典ギリシャ語のアクセントみたいなもんで、位置もだいたいおんなじだった。このばあいもアクセントは -hám のほうにあって、ギリシャ語とおんなじだ。

関連記事
 ・「物質的」になったアクセント
 ・古典ギリシャ語のアクセントの発音
 ・ギリシャ語の音程

2012.04.02 kakikomi

|

« 丸いアール、3種類のエス、ドイツ語以外のエスツェット | トップページ | 星座の名まえの略号
(ラテン語の学名とその属格と略号の一覧) »