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イタリア語の -ia のアクセント

-ia でおわるイタリア語の単語をみてみると(必要に応じてアクセントの位置を鋭アクセント記号でしめすけど、実際のつづりにはこの鋭アクセント記号はない)、 Itália [イターリア]とか Germánia [ジェルマーニア](ドイツ)とか matéria [マテーリア](材料、物質)みたいに -ia のまえの音節にアクセントがあるのをよくみかける。このみっつはもとのラテン語だと(発音はひとつめが古典式、ふたつめがローマ式) Itália [イータリア/イタリア]、Germánia [ゲルマーニア/ジェルマニア]、matéria [マーテリア/マテリア]で、イタリア語とアクセントの位置がおんなじだ。イタリア語の単語はだいたいラテン語のアクセントの位置をとどめてるから、アクセントが -ia のまえにあるのは当然ともいえる。

ところが -ia でおわってるもののなかにはアクセントが -ia の -i- にあるものがある。たとえば allegría [アッレグリーア](愉快、陽気さ)なんていうのがそうだ。allegria は allegro [アッレ(ー)グロ](愉快な、陽気な)っていう形容詞の抽象名詞で、allegro のもとはラテン語の alacer [アラケル](活気のある、愉快な)の俗語のかたちだ。

alacer の抽象名詞は alacritas [アラクリタース](活気、愉快)で、この alacer と alacritas っていう古典ラテン語をひきついだ単語がイタリア語にはべつにある(alacre、alacrità)。alácritas と alacrità [アラクリタ](この重アクセント記号はつづりの一部)はアクセントの位置がちがってるけど、イタリア語にのこったのはラテン語の対格のかたちで、alacritas の対格は alacritátem [アラクリターテム]だから、alacrità のアクセントの位置はラテン語とかわりがない。-ia でおわってる単語の対格は -iam で、対格と主格のアクセントの位置はおんなじだから、このばあいは主格のかたちで比較してもいい。

allegria は直接ラテン語からひきついだ単語じゃなくて、allegro に抽象名詞の接尾辞 -ia がついてできたものだ。この -ia はもちろんラテン語起源なんだけど、イタリア語の接尾辞としては -i- にアクセントがあって、ラテン語とはちがってる。そうなったのはギリシャ語の影響で、ギリシャ語の接尾辞 -ia (-ία)のアクセントは -i- にある。

だから、ラテン語をそのまんまひきついでる単語のばあいは -ia のまえにアクセントがあって、イタリア語になってからできた単語のばあいは -ía っていうアクセントになってるってことだろう。

ところが、ラテン語の段階からある単語のなかにも -ía っていうアクセントになってるのがある。たとえば allegoría [アッレゴリーア](アレゴリー、比喩)っていうのがそうなんだけど、ラテン語だと allegória [アッレーゴリア/アッレゴリア]で、このラテン語をひきついでるのにアクセントの位置がちがう。

こういうのはけっこうある。「ラテン語 イタリア語」っていう順で例をあげてみよう。意味は省略するけど、英語にもはいってることだし、だいたいわかるとおもう。

  • astrológia [アストロロギア/アストロロジア] astrología [アストロロジーア]
  • astronómia [アストロノミア/アストロノミア] astronomía [アストロノミーア]
  • chorográphia [コーログラピア/コログラフィア] corografía [コログラフィーア]
  • democrátia [デーモクラティア/デモクラツィア] democrazía [デモクラッツィーア]
  • geográphia [ゲオーグラピア/ジェオグラフィア] geografía [ジェオグラフィーア]
  • geométria [ゲオーメトリア/ジェオメトリア] geometría [ジェオメトリーア]
  • harmónia [ハルモニア/アルモニア] armonía [アルモニーア]
  • hierárchia [ヒエラルキア/イエラルキア] gerarchía [ジェラルキーア]
  • melanchólia [メランコリア/メランコリア] malinconía [マリンコニーア](melanconía [メランコニーア])
  • melódia [メローディア/メロディア] melodía [メロディーア]
  • oeconómia [オエコノミア/エコノミア] economía [エコノミーア]
  • phantásia [パンタスィア/ファンタズィア] fantasía [ファンタズィーア]
  • philológia [ピロロギア/フィロロジア] filología [フィロロジーア]
  • philosóphia [ピロソピア/フィロゾフィア] filosofía [フィロゾフィーア]
  • prosódia [プロソーディア/プロゾディア] prosodía [プロゾディーア]
  • rhapsódia [ラプソーディア/ラプソディア] rapsodía [ラプソディーア]
  • symphónia [スュンポーニア/スィンフォニア] sinfonía [スィンフォニーア]
  • theogónia [テオゴニア/テオゴニア] teogonía [テオゴニーア]
  • theológia [テオロギア/テオロジア] teología [テオロジーア]
  • theória [テオーリア/テオリア] teoría [テオリーア]

こういうのはみんなギリシャ語系の単語だ。ギリシャ語からラテン語にはいって、それがイタリア語になったわけだけど、そういうものは接尾辞の -ía とおんなじでアクセントの位置がかわった。もとのギリシャ語のアクセントの位置にもどったわけだ。

古典にないことばで、あたらしくギリシャ語からつくられた単語のばあいでも、そのイタリア語版は fotografía [フォトグラフィーア]、psicología [プスィコロジーア]っていうふうに -ía になってる。ラテン語だったら photográphia [ポートグラピア/フォトグラフィア]、psychológia [プスューコロギア/プスィコロジア]っていうアクセントになる。

ただしギリシャ語系の単語にも例外はあって、ラテン語のアクセントの位置とかわらないのもある。

  • comóedia [コーモエディア/コメディア] commédia [コンメーディア]
  • tragóedia [トラゴエディア/トラジェディア] tragédia [トラジェーディア]

それとか、-ía でおわるギリシャ語系の単語で、もとのラテン語でもアクセントはその位置だったのもある。

  • energía [エネルギーア/エネルジア] energía [エネルジーア]
  • pharmacía [パルマキーア/ファルマチア] farmacía [ファルマチーア]
  • politía [ポリーティーア/ポリツィア] polizía [ポリッツィーア]

こういうのはまたちょっとはなしはべつで、そもそもギリシャ語が -ía でおわってることばじゃない。

参考までに、ギリシャ語系の単語のもとのギリシャ語をあげておこう。イタリア語の -ia に影響したギリシャ語は時期をかんがえると古典時代の発音じゃないから、現代ギリシャ語の発音もつけた(発音はひとつめが古典式、ふたつめが現代語式)。ラテン語との関係は古典式を、イタリア語との関係は現代語式をみてもらえばいいとおもう。古典にはなかった単語にもいちおう古典式の発音をつけといた。

  • ἀλληγορία [allɛːɡoríaː アッレーゴリアー/aliɣoˈria アリゴリーア]
  • ἀστρολογία [astroloɡíaː アストロロギアー/astroloˈjia アストロロイ゙ーア]
  • ἀστρονομία [astronomíaː アストロノミアー/astronoˈmia アストロノミーア]
  • χωρογραφία [kʰɔːroɡrapʰíaː コーログラピアー/xoroɣraˈfia ホログラフィーア]
  • δημοκρατία [dɛːmokratíaː デーモクラティアー/ðimokraˈtia ズィモクラティーア]
  • γεωγραφίαɡeɔːɡrapʰíaː ゲオーグラピアー/jeoɣraˈfia イ゙ェオグラフィーア]
  • γεωμετρίαɡeɔːmetríaː ゲオーメトリアー/jeomeˈtria イ゙ェオメトリーア]
  • ἁρμονία [harmoníaː ハルモニアー/armoˈnia アルモニーア]
  • ἱεραρχία [hierarkʰíaː ヒエラルキアー/ierarˈçia イエラルヒーア]
  • μελαγχολία [melaŋkʰolíaː メランコリアー/melaŋxoˈlia メランホリーア]
  • μελῳδία [melɔːidíaː メローイディアー/meloˈðia メロズィーア]
  • οἰκονομία [oikonomíaː オイコノミアー/ikonoˈmia イコノミーア]
  • φαντασία [pʰantasíaː パンタスィアー/fandaˈsia ファンダスィーア]
  • φιλολογία [pʰiloloɡíaː ピロロギアー/filoloˈjia フィロロイ゙ーア]
  • φιλοσοφία [pʰilosopʰíaː ピロソピアー/filosoˈfia フィロソフィーア]
  • προσῳδία [prosɔːidíaː プロソーイディアー/prosoˈðia プロソズィーア]
  • ῥαψῳδίαapsɔːidíaː ラプソーイディアー/rapsoˈðia ラプソズィーア]
  • συμφωνία [sympʰɔːníaː スュンポーニアー/siɱfoˈnia スィンフォニーア]
  • θεογονία [tʰeoɡoníaː テオゴニアー/θeoɣoˈnia セオゴニーア]
  • θεολογία [tʰeoloɡíaː テオロギアー/θeoloˈjia セオロイ゙ーア]
  • θεωρία [tʰeɔːríaː テオーリアー/θeoˈria セオリーア]
  • φωτογραφία [pʰɔːtoɡrapʰíaː ポートグラピアー/fotoɣraˈfia フォトグラフィーア]
  • ψυχολογία [psyːkʰoloɡíaː プスューコロギアー/psixoloˈjia プスィホロイ゙ーア]
  • κωμῳδία [kɔːmɔːidíaː コーモーイディアー/komoˈðia コモズィーア]
  • τραγῳδία [traɡɔːidíaː トラゴーイディアー/traɣoˈðia トラゴズィーア]
  • ἐνέργεια [enérɡeːa エネルゲ~ア/eˈnerjia エネルイ゙ア]
  • φαρμακεία [pʰarmakěːaː パルマケ~アー/farmaˈkʲia ファルマキーア]
  • πολιτεία [poliːtěːaː ポリーテ~アー/poliˈtia ポリティーア]

2012.05.11 kakikomi; 2017.06.29 kakinaosi

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