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エルサレムの三か国語の標識

エルサレムの旧市街に「悲しみの道」っていう通りがある。キリストが十字架を背おわされて、はりつけにされるゴルゴタの丘まであるかされた道だ。ラテン語で via dolorosa っていって、発音は古典式なら[ウィア ドローローサ]、ローマ式なら[ヴィア ドロロザ]だけど、イタリア語にちかいローマ式で[ヴィーア ドロローザ]って発音されることもあるだろうし、ドイツ式でも[ヴィーア ドロローザ]になる。

この通りの標識も前回のパレルモみたいに三か国語になってて(パレルモの三か国語の標識」)、上からヘブライ語、アラビア語、ラテン語がかいてある。でも、さすがにイスラエルの標識だけあってヘブライ語がまちがってるなんてことはない。

ヘブライ語はラテン語をそのまんまうつしただけのもので、アラビア語は「悲しみの道」っていう意味をアラビア語に訳してる。

via をうつしたヘブライ語のつづりにはふたつある。通りのあっちこっちにタイルでできた標識があって、標識の外枠には植物模様の装飾がほどこされてるんだけど、その装飾がヘブライ語とアラビア語のあいだにもある標識だと via は וִיאָה via で、ヘブライ語とアラビア語のあいだに装飾のしきりがない標識だと וִיָה viya だ。パレルモのヘブライ語の via のつづりはおかしかったけど、こっちはもちろんちゃんとしてる。ただ、外国語をヘブライ文字でかいてるだけだから、ヘブライ語としてきまったつづりがあるわけじゃなくて、かきかたとしてはいくつかありえる。

タイルじゃない標識もあって、青地の標識の via は וִיָּה viyya になってる。これはしきりがないほうとつづりはおんなじなんだけど(ローマ字はちがってるけど)、ひとつだけ記号がちがってる。このちがいは外来語なんかの表記としてどっちもみかける。

dolorosa のほうはどれも דוֹלוֹרוֹזָה doloroza だ。これからすると、ラテン語の古典式発音をうつしてるんじゃないってことがわかる(via をうつしたほうだって現代ヘブライ語としては「ヴィ」だから古典式じゃないんだけど)。母音のながさのちがいはいまのヘブライ語にはなくなってるから、厳密なローマ式なのかイタリア式なのかドイツ式なのかはなんともいえない。

アラビア語は意味を訳してるって説明したけど、青地の標識だけは意味を訳したアラビア語の下にちいさくカッコにいれてラテン語の発音をアラビア文字でかいたものもついてる。それをみるとそのアラビア文字は ڤيا دولوروزا via doloroza だ。アラビア語には /v/ はないんだけど(/w/ はある)、外来語とかの発音用に /f/ の文字に点をふたつくっつけて /v/ をあらわすことにしてる。最初の文字がそうだ(アラビア語は右から左によむ)。つまりアラビア文字でも[ウィア]じゃなくて[ヴィア]になってる。それから dolorasa も[ドロロザ]だ。アラビア文字でうつした発音からも古典式じゃないことがわかる。

青地の標識にはヘブライ語とラテン語にもほかとちがうとこがある。ヘブライ語には最初にちいさく רח׳ っていうのがついてる(ヘブライ語も右から左によむ)。これは前回説明したみたいに רחוב rəov [レホーヴ](通り)の略だ。おんなじように、ラテン語の最後にもちいさく ST. っていうのがついてる。これはたぶん英語の street なんだろうな。via そのものが「道、通り」だけど、この標識のヘブライ語とラテン文字の部分は「ヴィア・ドロロザ通り」ってかいてあるようなもんだろう。

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2012.05.07 kakikomi

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