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ギリシャ文字 Χ のローマ字がき

ジョー・マーチャント『アンティキテラ 古代ギリシアのコンピュータ』(文藝春秋)っていう本にこういう一節がある。

第三の破片の目盛の上に、それまで隠れていた決定的な文字を読み取ることができた。ΠΑΧΩΝ(パチョン)である。パチョンは古代エジプト暦の、ある月をあらわすギリシア語だった。

古典語(古代語)でも現代語でもいいけどギリシャ文字のよみかたをしってるひとなら、ここにでてくる「パチョン」っていうのがおかしいっていうのはすぐわかるだろう。

日本語訳で「パチョン」になってるとこは原文だと Pachon だ。これはギリシャ語の ΠΑΧΩΝ をローマ字がきしたもので、ch は Χ をうつしたものだから、ΠΑΧΩΝ (Pachon)はほんとは「パコーン」になる。

こういうふうに、Χ を ch でうつすと英語式の発音とまちがえられやすいとおもう。ヘボン式ローマ字の ch のことをかんがえてもいい。

古代ギリシャ語の Χ の発音は /kʰ/ で、これをローマ字にするなら kh のほうが誤解がなくていいだろう。古代ローマ人がギリシャ語をラテン語にうつすときに ch をつかって、それがいまの西洋語にもうけつがれてるんだけど、英語の影響をかんがえると ch じゃないほうがいいとおもう。英語でも character みたいにギリシャ語系の単語だと ch を /k/ ってよむけど、ch のいちばん規則的な発音は /tʃ/ なんだから、ch はつかわないほうがいいんじゃないかな。

無気音と有気音の対応のことをかんがえても、そのほうがいいとおもう。無気音 Τ /t/ を t で、有気音 Θ /tʰ/ を th でうつすのと、無気音 Π /p/ を p で、有気音 Φ /pʰ/ を ph でうつすのはごくあたりまえっていうか、これ以外のやりかたはないっていえるだろう。このふたつのペアをみるとそれぞれ t と p っていうおんなじ文字がつかわれてる。

それとおんなじで、無気音 Κ /k/ を k でうつすんなら、それにあわせて有気音 Χ /kʰ/ も kh のほうが、おんなじ k になるからわかりやすい。

っていっても、Κ を c であらわすんなら、Χ は ch がいいってことになるけど、Κ についてはラテン語式の c はあんまりつかわれてなくて、k が一般的だ。だから、その k にあわせて kh にするのが、無気音と有気音の対応からも、いいとおもう。

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2012.05.16 kakikomi

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