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ギリシャ語の歯

2012年5月26日の「世界ふしぎ発見!」(TBS)は「南オーストラリア 別世界を巡る冒険」っていうタイトルで、3問めは有袋類の化石に関係ある問題だった。

化石が発見されたむかしの有袋類の名まえで、ディプロトドンとかプロコプトドンっていうふうに「ドン」でおわってるものがある。恐竜でもイグアノドンとかプテラノドンとかやっぱり「ドン」でおわってるのがある。

その「ドン」はギリシャ語なんだけどどういう意味かって問題で、こたえのVTRでディプロトドンの名まえを説明して、「“ディプ”は2つという意味 “ドン”は歯を意味します つまり“2つの歯を持つモノ”という意味です」っていってた(字幕をそのまんま引用)。

「歯」っていう意味なのはそのとおりだけど、そもそも問題がちょっとおかしいし、この説明にも疑問がある。こたえてたひとはほんとにこういうふうにいってたのかな。英語でなんていってたのかは日本語のふきかえがかぶっててわかんなかったけど。それにしても、テレビにでてくるギリシャ語のこととなるとこんなはなしばっかりになる。

まず「ドン」っていうのがおかしい。Diprotodon、Procoptodon、Iguanodon、Pteranodon に共通の要素は -don じゃなくて -odon だ。だから「オドン」のはずなんだけど、カタカナできりはなせるとこできっちゃったのかな。

ギリシャ語で「歯」は ὀδούς [odǔːs オドゥース](語幹は ὀδοντ- [odont])っていうから、-odon はこれとはちょっとちがってる。イオーニアー方言の ὀδών [odɔ̌ːn オドーン]がつかわれてるって説明してる英和辞典があるんだけど、学名をつけるのになんでイオーニアー方言なんだ?

複合語で、ἀνόδων [anódɔːn アノドーン](歯のない)とか καρχαρόδων [karkʰaródɔːn カルカロドーン](ノコギリのような歯をした)とか κυνόδων [kynódɔːn キュノドーン](糸きり歯)っていうのがあるから(καρχαρόδους [karkʰaróduːs カルカロドゥース]、κυνόδους [kynóduːs キュノドゥース]もある)、こういうのにならったものなんだろう。

ディプロトドンっていう名まえは Di-prot-odon っていうふうに分解できる。「ふたつ」って意味なのは「ディプ」じゃなくて「ディ」だ。prot- は序数詞の πρῶτος [prɔ̂ːtos プロートス](1番めの)だから、この名まえは「ふたつの1番めの歯をもつもの」ってことなんだけど、1番めの歯っていうのは門歯のことだ。画面にうつった下あごの化石には、あごの先端におおきな2本の門歯があった。ただ「2つの歯を持つモノ」だったら歯が2本しかないみたいだ。

こたえあわせのあと、司会者が「たぶんギリシャ語のドンからデント…」っていって、それをいわれた解答者のひとりが「デンティストのデント…」っていってたけど、たしかにオドンとデントは関係がある。でもギリシャ語のオドンがデントになったわけじゃない。

dentist の dent- はラテン語の「歯」 dens [デ(ー)ンス]の語幹なんだけど、ラテン語の dens もギリシャ語の ὀδούς もサンスクリット語の दन्त danta [ダンタ]も英語の tooth もドイツ語の Zahn [ツァーン]も、インド・ヨーロッパ祖語にさかのぼれる、おんなじ語源からうまれたことばだ。このことばは「たべる」っていう動詞の現在分詞だった。

イオーニアー方言:イオニア方言。

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2012.05.27 kakikomi

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