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アクセントとイントネーション

アクセントとイントネーションはちがうのに、日本語のアクセントのことをイントネーションっていってるのをきくことがあるし、たとえばアイルーのアクセントについて「アイルーのイントネーション」で検索してるひともいる。

 個々の語について、社会的習慣として一定している所の、相対的な高低又は強弱の配置を「アクセント」という。
 世界の諸言語のアクセントには、「高さのアクセント」(pitch accent)と「強さのアクセント」(stress accent)との二種があるが、国語のアクセントは、現代の諸方言を通じ、又古今のアクセントの歴史を通じて、すべて「高さのアクセント」である。
(築島裕『国語学』東京大学出版会)

日本語のアクセントは高さアクセントだけど、英語のアクセントは強さアクセントだ(こまかくいうとほかの要素もあるみたいだけど)。だから、アクセントっていうと英語の授業の影響で強さのことだってことになって、一方で英語についてイントネーションのこともおそわったりするから、高さのちがいをなんでもかんでもイントネーションだっておもうようになっちゃうのかな。

英語の accent はもとをたどるとラテン語の accentus [アッケントゥス]で、これはギリシャ語の προσῳδία [prosɔːidíaː プロソーイディアー]を直訳したことばだ。この場合の προσῳδία はもちろんアクセントのことなんだけど、ことばそのものの意味としては「(なにかに)そえられた歌」ってことで、古代ギリシャ語のアクセントは高さアクセントだったし、「歌」っていってるぐらいだから、もともと高さアクセントをあらわしてることばだった。だから、それを直訳した accentus が起源の「アクセント」ってことばが英語とかの強さアクセントだけじゃなくて日本語の高さアクセントにもつかわれてるのはすこしもおかしなことじゃない。

それにしても、たしかに高さアクセントとイントネーションはまぎらわしいかもしれない。イントネーションの説明をひとつ引用しよう。ここではイントネーションのことを「音調」っていってる。

 音声連続における声の高さの変動(あるいは不変動)を音調という.呼気段落あるいは文に該当する音声連続について言われるのが普通である
(服部四郎『音声学』岩波書店)

イントネーションは声の高さの変化のことなわけだけど、ここで「あるいは不変動」っていってるみたいに、高さの変化がないのもイントネーションのパターンのひとつだ。たいていは文とか息つぎの段落についていわれる。ただし、単語ひとつからできてる文もあるから、その場合には、文のイントネーションっていっても、その単語のなかだけの高さの変化(または不変化)になる。

じゃあ、高さアクセントとイントネーションはどうちがうかっていうと、

 単語高さアクセントと文音調とは次の点で異なる.前者は単語または単語結合について一定しているが、文音調はそうではなく、同じ単語がいろいろの文音調を帯びることができ、アクセントの異る単語が同じ型の文音調を帯びることもできる.また、単音と同様アクセントの型は意味を表わさない.たとえば、東京方言の[¯ne_ko](猫)が高低型であること自身は何らの意味も表わさない.これに反し、文音調の型は意味を表わすことがある.たとえば「猫?」という発話の昇り音調は疑問の意味を表わす.
(服部四郎『音声学』岩波書店)

最初に引用した文章にも「個々の語について、社会的習慣として一定している」ってかいてあったみたいに、高さにしても強さにしてもアクセントは単語とか単語のグループについて一定してるのに対して、イントネーションはそうじゃない。おんなじ単語にいろんなイントネーションがつけられる。それと、疑問文の尻あがり調子みたいにイントネーションは意味をあらわすことがあるけど、アクセントそのものはそれだけで意味をあらわしてるわけじゃない。

アクセントが一定してるっていっても、文章のなかである程度の変化がある場合もある。たとえば英語で Japanese のアクセントは Jap- に第2アクセントがあって -nese に第1アクセントがあるけど、形容詞としてつぎに単語がつづくときは Jap- に第1アクセント、-nese に第2アクセントっていうふうになることがおおい。

日本語のアクセントにしても、文章のなかで1拍めの高さがかわる(「アイルー」の語源とアクセント」の例を参照)。これをイントネーションの要素だって解釈するあたらしいほうの説にしたがうならアクセントの変化じゃないわけだけど、この部分もアクセントだって解釈するなら、こういう変化もあることになる。ただし、日本語にしても英語にしても変化のしかたには規則があるから、それもふくめて「一定している」っていえる。

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2012.12.02 kakikomi

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