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『世界一簡単なフランス語の本』

中条省平『世界一簡単なフランス語の本―― すぐに読める、読めれば話せる、話せれば解る!』幻冬舎新書

「歴史的入門書の誕生!」「フランス語の画期的入門書!」っていう宣伝文句の本だけど、新書だから、よくある語学の入門書とはちがう。まずは読みものみたいな感じで、入門の入門ってとこかな。

宣伝文句では、「日本人の西洋への憧れを凝縮するかのような、ちょっとむずがゆい魅力ある言葉それがフランス語」なんてこともいってる。自分としてはフランス語にそういうイメージは特別ないもんだから、あっ、そうだったんだ、って感じだけど、まあ、一般にはそういうもんなのかもね。

で、とにかくひととおり読んでみたけど、「歴史的入門書」「画期的入門書」とまではおもわなかった。

そこまでおもわなかったのは、そもそもフランス語が好きじゃないからなのかもしれない。それに、かいてあることそのものは、ひととおり勉強したことがあるものにとってはわかってることだから、そういう意味でもおもしろいわけじゃなかったし。

新書の外国語入門書としては、講談社現代新書に『はじめてのラテン語』(大西英文)と『はじめてのイタリア語』(郡史郎)っていうのがあって、この2冊はなかなかいい本で、気に入ってる。こっちの宣伝文句はそれぞれ「やさしく明快な入門・決定版!」と「楽しく読める入門書決定版!」っていうもので、そのとおりだとおもう。『世界一簡単なフランス語の本』よりもくわしい内容だから、ちょっとむずかしい感じがするとこがあるかもしれない。

もっとも、この2冊のほうがいいっておもうのは、フランス語よりもラテン語とイタリア語のほうが好きだからなのかも…?

ところで、『世界一簡単なフランス語の本』のなかで疑問におもったとこがある。Parisienne とか Jeanne の発音について、カタカナでパリジェンヌとかジャンヌってかかれるけど鼻母音になるわけじゃないっていってる。でも、その説明はちょっとちがうとおもう。

男性形のパリジャン Parisien /parizjɛ̃/ とかジャン Jean /ʒɑ̃/ は鼻母音だけど、そういうのとちがって、女性形の Parisienne /parizjɛn/ とか Jeanne /ʒɑːn, ʒan/ は鼻母音じゃない。それはそのとおりだ。

だけど、パリジェンヌとかジャンヌの「ン」は鼻母音をうつしたものとはちがうとおもう。パリジャンとかジャンの「ン」は鼻母音をうつしたものだから、パリジェンヌとかジャンヌのほうもそうおもいたくなるかもしれない。でもこれは実際の発音をうつしてるんだとおもう。つづりに n がふたつあるっていうことの影響があるかもしれないけど、それだって、実際の発音が「ンヌ」みたいにきこえるからこそ、つづりどおりともいえる「ンヌ」ってかくことになったんじゃないかな。パリジェンヌとかジャンヌの「ン」は鼻母音じゃなくて子音の /n/ をうつしたものだろう。

フランス語の場合、子音でおわる単語の発音で、最後の子音に支え母音[ə ウ]がつくことがよくある。発音記号の /parizjɛn/ からすると[パリズィエン]って発音になりそうだけど(そういう発音もあるけど)、実際の発音をきくとたいてい[パリズィエンヌ]みたいにきこえる。最後の子音に[ə]をつけて発音するからだ。さらに、/n/ を発音して、舌先を前歯あたりにくっつけたまんま、次に[ə]を発音するときに /n/ の開放がおこるから、/n/ を二重に、あるいは長めに発音する感じになる(日本語とちがって、二重の、あるいは長めの子音と、短い子音の区別はフランス語にはない。日本語の感覚だと、二重の、あるいは長めの子音は、子音の種類によって「ン」とか「ッ」とかがはいってるようにきこえる)。だから「ンヌ」ってかきたいような発音になる。パリジェンヌとかジャンヌの「ン」は、鼻母音じゃなくて、こういう発音をうつしたものだろう。

この手の発音はベルサイユ Versailles /vɛrsɑːj, vɛrsaj/ なんかともおんなじことだ。最後が「ユ」なのは、純粋に /j/ っていう子音だけの発音じゃなくて、支え母音[ə]がくっついてるからだし、/n/ の場合とおんなじように /j/ が二重に、あるいは長めに発音されて「イ」がはいってるような感じになる(「ヴェルサユ」とか「ヴェルサーユ」ってかけるような発音もあるけど)。この本にかいてあるみたいに、つづりに i があるってことの影響もあるかもしれないけど、そもそもがそういうふうにきこえる発音だってことがなけりゃ「イユ」とはかかれなかったんじゃないかな。

ついでにいうと、単語の最後の /j/ の発音が[jjə, jːə]みたいになる例はスウェーデン語にもある。たとえば、Borg /bɔrj/ っていう名前は[ボーリユ]みたいにきこえる。これもおんなじようなことなんだろう。

2018.04.27 kakikomi

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